目利き&仕入れ力のある店しか生き残れない

株式会社和装コンサルタンツ 代表取締役 廣瀬祥久

1.目利きのない店では買いたくない

少々キャッチーなタイトルを付けた理由は今後の着物店に対してさらに危機感を感じるためです。かつて着物は持っていること自体に価値(所有価値)があった時代でした。着物店も希少価値性や商品に対するうんちくなどを伝えていれば、あとは少々のコーディネート力があれば有る程度売れていたと思います(私もそうでした)。

しかし、昨今のユーザーはSNSやWEBサイト、ECサイトなどから情報を収集しているため、かつてのユーザーとはベースが違います。探す(検索)楽しみから自ずと見極める目も養われ、お洒落に見えないな・・・と思われたら二度とそのサイトや店にはアクセスしてくれなくなります。従って、着物店に求められるレベルも高くなっています。

まず、本物の「コーディネート力」が不可欠です。この「本物のコーディネート力」をここでは「目利き」といたします。パターン化されたコーディネート経験だけではなく、裏付けのあるロジックも必要かと思います。詳細は後ほど述べますが、これまでのようにベテランの勘や経験だけでは厳しいと言わざるを得ません。なぜなら、ユーザーのベースが上がっただけでなく、世界観まで求めるようになってきていると感じるからです。「こんなお店で買いたい・・・」という「共感」できる世界観のベースも必要になっていると思うのです。

そもそもユーザーは買い物で失敗したくありません。ましてや高価格帯の着物はなおさらです。ユーザーはSNSやWEBサイト・ECサイトを見て比較検討し、選んだお店へ下見にいきます。どの段階でもユーザーが求めているレベルに達していなければ二度とアクセスしてくれなくなります。

2.委託販売・お任せ販売による自店の弱体化⇒仕入れが不可欠

目利きのある店が少なくなった最大の要因は、委託販売・お任せ販売を続けてきてしまったことだと思います。要は、商品を仕入れ、在庫が残らないように販売していくというリスクを背負ってきてないからです。しかも、昨今の着物店は展示会の商品の選品も問屋・メーカーお任せです。展示会の設営日に商品を目にし、そこから来場されるお客様に合いそうな商品の目星をつけていく・・・そんな感じかと思います。

着物店はその展示会の集客に余念がなく、電話やLINE、DM等に注力してきているので、ユーザーにとっての関心事である「私に似合う着物を・・・」という商品から遠のいていきます。これは展示会に多数のお客様に来場いただき、一定の買上率でお買上いただくという販売で業界が成り立ってきてしまっているため、重点が集客になってしまったのです(私もそうでした)。

結果として、目の肥えたユーザーからしたら魅力のない展示会になってしまい、似合う着物を進められるわけでもないので、ますます足が遠のき、売上減少となります。

もっと一人の「お客様」に目を向け、このお客様に対しどのように提案し続けたら素敵な「着物人」になってもらえるか・・・というところからお一人お一人のお客様を積み上げていくボトムアップ式の方が結果的には安定した売上作りが出きると思います。これは絵空事ではなく、私のあるクライアントさんも数年前からこの考え方に変えて頂いてからお客様は増え続けており、着付け教室に至ってはキャンセル待ち状態です。売上はコロナ禍前より増えており、店が手狭になったため、今年(2024年)の夏には2倍の広さの店舗へ移転するほどです。

この店で強化したことの一つが「仕入れ」です。委託販売・お任せ販売で売上作りをしていたところから、通常の店舗在庫は当然、展示会の商品も仕入れ品を増やし続けています。さらには染職人と共同で染め出しを行い、オリジナル品も揃えるようになっています。当初は在庫コントロールに苦労しましたが、今はかなり高い確率で仕入れ品が売れるようになっています。仕入れしていくうちに目利きが出きるようになります。売り手が好きな商品でなく、お客様を念頭におきながら、この品はあの人にいけるのでは・・・と思い浮かべながら仕入れていただくことで目利き力が養われていくのです。仕入れには財務力も必要なため、出きるようになるには一定の時間はかかるかもしれませんが、今後生き残る着物店の指標のようなものとして、この仕入れ力は大切にしていただきたいと思います。

3.世界観のある店が求められる(ブランディング)

昨今のユーザーは十人十色、多種多様などと言われますが、それは情報にますます敏感になってきているということでもあると思います。そんな時代に、「うちの店はこんな店です・・・」というメッセージややコンセプトがなければ見向きもされなくなるのは自明の理です。更にいえば、昨今のユーザーは店を普通に使い分けしています。着物も近隣の店からECサイト、さらには見たいものがあれば遠方でも着物を着て移動していることは、「きものサローネ」などの賑わいを見ても明らかです。

店の色やメッセージがなければ、その使い分けの選択肢にも上らない時代です。では、どうしたらいいか? やはり売り手の「好き」がまず原点かと思います。ユーザーは売り手の「好き」に共感&憧れ、ついてきてくださるのです。だから売り手の方がどんな着こなしが素敵だと感じるか、そこを掘り下げることからやってみてはいかがかと思います。

先ほどご紹介したクライアントは、今後「無地で洒落る・遊ぶ」をコンセプトにした品揃えと店舗設計にする予定です。元々、そこに魅力を感じて遠方からもお客様が来店されるようになっていたのですが、さらに一歩すすめ、店内も無地が映える内装に変更していきます。無地は色で勝負できる着物でもあるので難しいところではあるのですが、これまでの経験や後ほど述べる着物カラー診断の経験を使い、色出しを行っていく予定です。そして、その品揃えに今後とても役立ちそうなのがインクジェット染めの普及です。

4.インクジェット染め普及により自店オリジナル商品が当たり前に

最近の着物用インクジェット染めは良く出来ており、なかなかのレベルで仕上がっています。ここ数年の振袖の約8~9割はインクジェット染め物ですが、着物業界の方でも一見分からないレベルです。従来の染めよりコストを抑えて商品作りが出来ますので、振袖以外でもさらに普及していくことは間違いないと思います。

これは即ち、資本力がなくても自店のオリジナル商品が作りやすくなったことを意味します。それは良かった・・・とならないのがここでお伝えしてきていることです。作れることと創ることは別だからです。作ることはできるが、どう創るのかはまったく別のスキルになります。要はデザインであり、そのデザインを魅力的に見せるためにどの生地を選ぶのか?(どの地模様の白生地を選ぶか?)ということです。

デザインは各美術大学・造形大学の学生に依頼したり、生成AIのMidjourneyなどでデザインすることも可能ですが、すべては発注する側の「こんな商品が創りたい」という思いや具体案がなければ、実際の意匠は出来上がりません。目利きや仕入れ力が必要である所以でもあります。お客様の好みや今後どんなものを期待されているのかを知っておかなければなりませんし、個人単位で進められる物づくり・デザインのスキルも必要になって参ります。

更には、作り手の後継者不足や卸問屋の減少の影響により、既存品を仕入れはますます困難になっていきます。自店のオリジナル品が求められるようになるのは業界の事情でもあります。

5.目利き力をつける方法

では、目利きや仕入れ力をつけるためにはどうしたらいいか?一朝一夕には身につかなくても、これまでの経験もありますし、有る程度は挑戦できるかと思いますが、いわゆる感覚や勘では心許ないです。

そこで知識武装です。きちんとしたロジックや方法論などを身につけるといいと思います。おすすめは着物スタイル協会さんやKICCAさんが提供されているパーソナルカラー診断や顔タイプ診断の資格を取得されることです。この診断を通して、お客様がどんな色目が似合うのか?どんな柄行き・素材の着物が似合うのか?が場数・経験と共に身につけられるようになっています。これまでの着物スタイル協会さんやKICCAさんの診断はお客様へのサービス提供の範囲で行われることがほとんどでしたが、むしろ売り手である着物店こそ、この診断を活用し、自店で診断が出きるレベルまで学ばれることが必須かと思います。

そして、有る程度経験値が高まってきたら、それぞれのお客様に似合う着物がおぼろげながらも見えてくるようになります。そこから仕入れを行っていきます。仕入れの際気を付けることは、自分が惚れたものは以外に売れないということです。それは自分が好きなだけであって、お客様とは好みが別である可能性があるからです。こういうと、売り手の世界観に惚れて買うのだからおかしいのでは、と思うかもしれませんが、そうではありません。

売り手の世界観と共に、目の前にいるお客様をイメージしながら着物を選んでいくというかけ算で売れる商品を仕入れることができるようになっていくと思われます。

着物業界は縮小の一途を辿り、職人・作家・メーカーなどの作り手も壊滅状態のところが出来てきています。着物購入者も減少の一途を辿ってきていますが、一方で着物レンタルやリユース市場は拡大しています。即ち、着物への関心は減っているわけではなく、むしろ増えてきているのではと思います。事実、京都や浅草などの観光地は着物姿の若い女性で溢れています。一過性・・・という見方もありますが、20代・30代で着物を着る楽しみを経験していることは大きな潜在可能性に繋がると思います。昨今の「推し」ではありませんが、ユーザーから見て魅力的な展開をされていけば、まだ着物は復活できる要素や可能性があると信じています。